先日、近所の自転車屋さんで自転車を購入した際のエピソード。
通勤通学用の普通の自転車なのだが、そこの店員さんは、身長に合わせてサドルやハンドルの高さもきちんと調整してくれた。さらに、特に使い方が難しい訳ではないのだが、変速機の使い方やオートライトの仕組み、サドルの上げ下げ、盗難補償について、安全運転のチェック項目など、きちんと説明してくれた。
当たり前といえばそうなのだが、今まで、普通の自転車を買ったときに、そこまできちんと説明してもらったことがなかったので、随分と新鮮に感じたし、その店員さんに好印象を持った。
たかが自転車くらい、そんなに説明しなくても大丈夫と思うかもしれないが、お客さんは、自転車をはじめて買う人かもしれないのだから、必要に応じて適切な説明をしたほうが親切だ。
とはいえ、自転車好きの店員さんにマニアックな説明を延々とされても聞く気は失せる。
「適切な」情報提供が重要
昨今、医療現場や商品販売などいろんな場面での情報提供の重要性が叫ばれている。ただ、何でもかんでもたくさん情報提供すればよいわけではなく、「適切に」提供することが肝要だ。
情報提供の仕方で印象的な例を2つ見てみよう。
iPhoneなどApple製品
従来の電子機器には、分厚い取扱説明書がついていることが常識だったが、iPhoneにはそれがない。説明書がなくても、触っていれば誰でも使えるくらいシンプルで直観的なインターフェースを売りにしているので、余計な情報提供は一切ない。
もし分からないことや困ったことがあった場合には、ウェブサイトのサポート情報で見つけられるし、アップルストアに行けば専門スタッフが丁寧に教えてくれる。
臓器移植の父トーマス・スターツル氏
日経新聞の春秋欄に、3月4日に90歳で亡くなった米国のトーマス・スターツル医師に関する記事が掲載されていた。
教授が漂わせる空気感と同じくらい驚いたのは、患者に対する情報提供の徹底ぶりだ。病室のベッド脇の壁には、毎日の検査の結果や投与している薬の分量などが張り出されていた。小児病棟では、おなかを開けるとリアルな内臓模型が出てくる「ザディーちゃん人形」を使い、子どもの患者に手術の手順を説明していた。
当時、脳死での移植が行われていなかった日本の実情を話すと、病院のスタッフは「大切なのは患者との信頼関係だ」と話した。
(日経新聞 2017年3月16日 春秋 より)
この話で印象的なのは、一般的には、専門的な説明しても分からないだろう、本人が手術を見る訳でもないから、と思われている子供の患者にも、相手が分かるようにきちんと情報提供している点だ。
怪我や風邪の治療とは違い、臓器移植のようによく分からない、難しいものであるほど、患者の不安は大きい。適切な情報提供により、何をどうするのか、自分でもしっかり認識できれば、不安を和らげることができるであろう。
情報提供は、少なすぎても詳しすぎてもいけない。相手にとって必要な量を、相手が理解できる形で提供する。マニュアルに沿った画一的な情報提供は適さない。
適切な情報提供は信頼関係につながる。
そのためには、相手のことを理解し、適切なコミュニケーションを取ろうという姿勢が重要である。